電池式3S4ミニパワー全段差動プッシュプルアンプ

(2010年4月:製作)

 

 

前書き

 インターネットで真空管関係のサイトを見ていて、電池管と呼ばれる真空管を見つけてしまいました。元々はポータブルラジオ等に使用された球でヒーター電圧が乾電池1個か2個で使えて、B電圧も積層乾電池の数十Vで動作します。

 妙に気になっていたのですが、これでオーディオアンプを作ろうとすると、出力は全然取れませんし、ヒーターは直熱式で点火が面倒です。しかし本来の姿である電池式で設計すればヒーター点火は電池1本で済んでしまいますし、部屋で「ながら」聞きしている時にはそれほど大きな音量で聞いている訳ではありませんので、ミニパワーでも出番はあると思われます。そこで電池駆動式のオーディオ(デスクトップ)アンプを作ることにしました

 

設計

 さて設計開始、いつもの通り2段式の全段差動アンプで、出力段を電池管、初段はFETとします。ミニパワーアンプなら簡単にシングル出力段とするのも手ですが、小さくてもクオリティを保とうとすると、低域の出るプッシュプルで差動と言う構成は外せません。電池管の中で電力増幅の役割を担っていて、手に入りやすい球に1S4(3S4)があります。5極管ですが3結データもあります。差動出力段の場合5極管だとスクリーングリッド電流の変動分が動作に影響しますので、3結で使用します。

 出力トランスはプッシュプル用では最小級(だと思います)のイチカワITPP-3Wを使用しますので、P-P間8kΩの負荷となります。3結データにロードラインを引いてみると、大体70V、6.5mA位の動作が適していそうです。グリッドのバイアスは-9V程度です。出力段ドライブに要するグリッド電圧は18Vp-p程度ですから、初段は2SK30ATM差動で大丈夫(ちょっと相互コンダクタンスが低いので増幅度不足気味ですが)でしょう。電流は1石あたり1mAとします。

 この条件から電池容量の検討をしましょう。当然ながら乾電池(1次電池)ではコストパフォーマンスが悪すぎますので、充電池を使うことになります。B電池ですが、出力段プッシュプルで13mA、初段の差動に2本で2mAとすれば、片チャンネル15mAですから両チャンネルで30mAとなります。Ni-MH充電池に秋月電子で売っている7.2V300mAhの006P型電池がありますがこれを11個直列にすることにします。300mAhの容量ですから30mAの負荷では約10時間持つ事になります。次にA電源ですが、3S4のヒーターは2.8V50mAまたは1.4V100mAなのでプッシュプル分2本で2.8V100mAか1.4V200mAとなります。こちらもNi-MHの単3型電池を使えば電圧は1.2Vと低めですが、1本で2000mAhの容量がありますので10時間大丈夫です。3S4のヒーターを並列にして使うなら、最初から1.4Vの1S4を使う方が配線が面倒くさくありませんが、3S4の方が安かったので、球は3S4に決定です。

 出力段のグリッドバイアスは約-9Vですから、グリッドをアース電位に保てばカソード電位が+9Vとなり、定電流回路は充分に動作します。それに対して初段は定電流回路をマイナス電源で引っ張ってやる必要があります。電池式アンプですから、A電池とB電池に加えてC電池を用意するのも乙なものですが、種類を増やすと管理も大変なので、ここはB電源にダイオードを入れてバーチャルにマイナス電源を作ることにします。とは言っても過大なマイナス電源を作るのは電源の有効利用になりませんから最小限の電圧に留め、定電流回路を低電圧で動作する形式とします。この結果、定電流回路は出力段がFETに電流調整用の抵抗を入れたタイプ、初段は定電流ICのLM334としました。LM334は2端子型で抵抗1本で電流値が決まる便利なICで電圧1Vで十分な定電流特性を得られるので、今回のようにマイナス電源への電圧配分が小さな場合に役立ちます。(但し温度センサとして使える位、周囲温度に反応しますのでその点に考慮が必要です)

 そしてミニパワーアンプですからヘッドフォンアンプとしても使用出来るようにします。ヘッドフォン(負荷インピーダンス32Ωを想定)も保護抵抗なしでそのまま接続しますが、この場合はロードラインが寝てきます、出力が小さいので、直接つないでもヘッドフォンが壊れることはないでしょう。ただ感度の関係でボリュームの常用位置が使いづらくなる可能性はありますが、製作してみて不具合があるようなら何らかの対策を施す事にします。

  回路図はこちらです。最終的なものを記載しています。出力トランスのインピーダンス端子選択については、後で記述します。

 

製作と調整

 予想出力0.2Wのミニアンプですから、シャーシもなるべく小さくしたいのですが、電池を内蔵しなければなりませんので極端な小型化は出来ません。電池の配置は下面に並べるか左右に固めて置くことが考えられます。左右に置いた方が薄型に仕上げられて格好は良いでしょうが製作のしやすさは下面に並べる方が上だと思われます。シャーシのカタログを見ながらどうしようかと考えました。タカチのMB-6Sと言う200mm×140mm×50mmのサイズのシャーシに押し込めそうです。電池が約20mm、真空管ソケットが10mmですから、50mmの高さのシャーシでは内面高が48mmとなり、基板の厚みを引くと部品実装高さが17mm以内となってしまいます。あまり余裕がありません。後で泣きを見るのはいやなので、同じ大きさで高さが75mmのMB-6に決定しました。

 ヒーター用の電池は埋め込みボックス(2本用のボックスだと直列になってしまうので、1本ずつ独立して使えるように改造)を使用して充電の時は取り出して、市販の充電器で充電します。B電池は11個直列にした両端の端子を取り出して自作した充電器(0.1Cの通常充電)で充電します。

 今回、真空管ソケットにはプリント基板用のものを使用してみました。シャーシ上面の出っ張りが少なくきれいに見える事を目指しています。配線はユニバーサル基板のパターン面に真空管ソケットをはんだ付けしてその他の部品は通常の部品面に取り付けます。

 配線の取り回しはあまり気を使わなくても大丈夫(電池駆動なのでハムは出ない)だと思いますが、信号ループを小さくする等の基本的なところは押さえておきます。いつもならスピーカー出力は左右別々なのですが、今回はヘッドフォンを使えるようにしたのでこの部分でアース側が共通になっています。この部分が左右のセパレーション特性に効いてくるかもしれないので共通インピーダンスを小さくするにこしたことはありません。

 ユニバーサル基板を使って回路を組むのは見た目に分かりやすい部品配置が出来るのですが、部品を取り替えたり配線を変更したりする場合に基板を取り外さなければならず保守性が良いとはいえません。多少なりとも改善するには、パターン(ランド)面に部品を取り付ける手がありますが、今回は真空管ソケットを基板に直接取り付けていますのでパターン面が隠れてしまいます。またソケットを取り付けるためにシャーシ面積の65%という大きな基板を使っています。このため基板を所定の位置に取り付けてからでないと外部部品との配線が出来ません。間違いがあったら大変なので慎重に作成を進めます。回路図と実態配線を見比べてチェックして良しとなったら基板を取り付けて外部配線をします。

 外部配線もチェックして電源を入れ、各部の電圧を測定します。あれれ、真空管回りの電圧が微妙に変です。試しにスピーカーと入力と繋いでみましたが全くの無音です。すぐに電源を切って目視チェックしますがおかしそうなところはありません。頭を冷やして考えるために時間をおいて、再チェックするも異常なし。測定した電圧から問題点を推測しますが、原因が分かりません。仕方がないので基板を外してチェックする事にしました。ここで保守性の悪さを呪う事になりますが自業自得です。

 基板の配線を再チェックしますが悪い所は見つかりません。抵抗のカラーコード間違いもなし。(必ずテスターで測定してから組み込んでいますので)

 それはそうと通電した時に真空管が全然暖かくならなったのでヒーター回りを疑って本当に繋がっているのかテスターでピン間を当たってみました。3S4はヒーター両端で2.8V50mA、センター端子を使用してパラにして1.4V100mAです。冷えている時の抵抗値はかなり低めになると思われますが、とにかくチェックしてみます。おや?両端(1,7pin)とセンター端子(5pin)間の導通がありません。まさか3S4は2.8V専用?? データ表を再確認するも、間違いなし。

 しかしここで疑念が・・・、このピン接続表は上下どちらから見たものなの?自分で配線図に書き写したものにはTOP Viewとなっていますが、普通に配線する時にはBOTTOM Viewを使うはずです。そこで3pinと思い込んでいた所にテスターを当てるとちゃんと導通があるではありませんか。

 やってしまいました!上下逆に見てるからピンが左右入れ替わっている。大ピンチです。(実は実態配線図を書かずに回路図の横にピン配置を書いたのですが、その時に誤っていたのです) 幸いな事に3pin(G1)と5pin(ヒーター中点)を入れ替えるだけで済みました(プレートは左右対称に2,6pinに引き出されていた)し、真空管も壊れていませんでしたが、冷や汗物です。

 配線を修正後に、電源を入れ各部電圧を測りますが、今度は正常な様です。ちょっと音を聞いてみますが、ちゃんと出てきました。良かった、良かった。(ちなみに正常に動作していても、ガラス管はほんのりと暖かいだけです。平気で触れてしまいます。これが電池管なんですね)

 一応音が出たので試験・調整に入ります。まず出力段の定電流回路の電流値を13mAに合わせます。これは定電流回路に電流検出用の抵抗を入れてあります。続いてプッシュプルの両管の電流バランスですが、今回は調整回路を設けませんでした。絶対的な電流が小さいので出力トランスへのDC重畳の影響も小さいだろうとの判断です。調整は出力管(左右で4本と予備2本の計6本)を差し替えてバランスの取れる組み合わせを探す方法です。完全にバランスを取るのは無理ですが、ある程度に納まれば良しとします。結果的には出力管の電流差を0.5mA以内に抑え込む事が出来ました。出力管の組み合わせが決まったところで定電流値を再度チェックして必要ならば調整します。

 初段は調整箇所なしです。ドレイン電圧のばらつきをチェックするに留めますが、事前にIDssとgmを測定してペアを組んでいますので、大きな差はありません。

 残る調整箇所は負帰還量ですのでその前に利得を測定します。恐らく負帰還を掛けるにしても僅かな量になるのですが、左右のレベル差を補正するために調整箇所を設けています。また使用する出力トランスは以前に使用して小型の割に低域は伸びていますが、高域が落ちやすいので高域特性の改善も負帰還を掛ける目的です。

 調整中に気付いたのですが、出力管の負荷インピーダンスを8kΩp-pとした時は、電池の電圧が79Vの時にP-K間には70Vの電圧と見込んでプレート電流を設定しましたが電池の電圧が満充電時には90Vもあり動作点が移動するのでこの条件だと、負荷インピーダンスを高くした方が適しているように思えます。そこで出力トランスの4Ω端子にスピーカーを接続することに変更しました。これだど6Ωスピーカーで12kΩp-p、8Ωスピーカーで16kΩp-pとなります。こちらの方が通常の動作(完全に放電する前に充電してしまいそうなので)としては良さそうな感じかします。トランスの出力端子を変えたので、変圧比も変わってトータル電圧ゲインも下がってしまいました。初段を2SK30ATMから2SK170辺りに変えた方が適切かもしれませんが、とりあえずこのままで行くことにしました。

 電池の実装は下の写真の通りです。さすがに11個も並ぶと壮観です。

 シャシ内部(相変わらず配線は・・・)は以下の通りです。真空管のソケットは反対側のパターン面に取り付けてあります。

 

  そしてこれが充電器です。プラスチックケース入りですが、トランスの高さがぎりぎりとなっています。

 

特性測定

 特性概要は以下の通りです。

 総合利得が低いので、通常聴取時のボリューム位置はかなり右に回した所になりますが、逆にヘッドフォン使用時も調整はスムーズです。最大出力は大変小さい(予想出力も下回ってしまいました)ですが、デスクトップで使用する分には音量不足を感じさせません。残留雑音はさすがに低い(ほぼ測定限界)です。消費電力が低いので夏向きのアンプと言えます。

 

L ch

R ch

総合利得(無帰還、8Ω)

2.26(7.1dB)

2.26(7.1dB)

総合利得(帰還後、8Ω)

1.91(5.6dB)

1.91(5.6dB)

ダンピングファクタ(1kHz、8Ω)

2.50

2.67

残留雑音(8Ω、無補正)

0.033mV

0.033mV

最大出力(1kHz、歪み5%、8Ω)

0.16W

0.16W

最大出力(1kHz、歪み5%、33Ω)

0.09W

0.09W

消費電力(概算)

3.1W

重量

2.1kg

 特性図(グラフ)はこちらです。

 


 

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