5842差動プッシュプルヘッドフォンアンプ

(2004年1月:製作)

 

 

 

前書き

 出力、数ワット程度のアンプならば6.8Ωと1Ωを直列にしたダミー抵抗を作り、1Ωに並列にヘッドフォンを接続すれば、レベル的にもちょうど良いし、ノイズも低減、ドライブインピーダンスも低いと、良いことだらけ。実際にアダプタを製作して使っていました。音質的にも問題はなかったのですが、デスクトップなら兎も角、ラックに収めたアンプの場合は接続替えが面倒です。そこでヘッドフォン専用アンプを作ることにしました。

 

設計と製作

  回路方式は例によって差動プッシュプルとします。ただヘッドフォンアンプなので、出来るだけシンプルに作りたいと思います。球の選択ですが、まずは双三極管が浮かびます。小出力ながら出力段に使おうとすると、当然ながら内部抵抗の低い球が好ましいです。その観点からは5687(約2.3k)や7119(約2.1k)がありますが、μが20前後のため単段での使用はゲインの面からちょっと苦しそうです。7119でヘッドフォンアンプを作られた「いとけい」さんも、後で2SK30を追加した2段構成に変更しています。

 双三極管でなければ「ARITO」さんがHPにメモとして書かれている5842が浮かびます。内部抵抗2k程度でμが43と高いのが特徴です。非常に小振りでMT9ピンのうち4本にグリッドが引き出されていることからも分かるように、本来はグリッド接地で高周波増幅に使用する球のようですが、データシートに The useful frequency range extends from low to very high frequencies. と書かれています。これに決めましょう。

 5842の動作点ですが、一応スピーカーを鳴らすことも考えてロードラインを引いてみます。130V、15mAで2.5kΩ(p−p間5kΩ)程度がよさそうですが、想定していたイチカワの小型プッシュプルトランスITPP−3Wは8kのはずです。確認のためにイチカワのHPを覗いてみると、なんと8kの他に5kがオーダー可能になっているではありませんか。バッチリです。でも内部抵抗2kの球に、1.25k(1本あたり)の負荷ですから、本当はスピーカーを鳴らすのはとても苦しいのではないかと思います。実際には手持ちのヘッドフォンのインピーダンスは32Ωであり、ロードラインは10k相当となります。動作点におけるVgは−1.5Vとなり、定電流回路にはマイナス電源が必要となります。当初はグリッドをプラスに引っ張ろうかとも思いましたが、ヒーターを直流点火にしてマイナス電源と兼用することにしました。ヘッドフォンアンプの場合残留雑音をなるべく少なくしたいので、ヒーターハムに対してもプリアンプ並みの対策をすることにしたのです。

 8Ω負荷時のロードラインからは電圧利得が22倍程度になりそうです。出力トランスの変圧比(1/25)やその他のロスを考慮すると、入出力間の電圧利得は1を割ってしまいます。この場合NFBは殆ど掛からなくなり、NFBによる特性の改善は期待できません。それでも左右チャンネルで利得差がでた場合の調整等を目的として若干のNFBを掛けられるようにします。これでほぼ回路は決まりました。B電源トランスには東栄の100V絶縁トランスZ−01ES(10VA)を、ヒータートランスには手持ち(キットからばらした)の6.3V、1A(以上)×2を使用します。

 ケースは設置予定場所から来る制限で幅12cm以内という条件があります。当初は電源筐体を分離して少しでもトランスのハム誘導を減らそうと思っていたのですが、適当なケースがありません。色々カタログを当たってタカチのUC−12−14−22に狙いをつけました。幅が12cmちょうどですが、高さが14cmあるので内部で2階建て構造にすれば何とか収まりそうそうです。

 で、秋葉原に買出しに行ったのですが、なんとびっくり!当該ケースもあったのですが、同じ大きさで空冷ファンのついたモデルが、2/3以下の特価で売られていたのです。迷わずそちらを買ってしまいました。ファンユニットは使用しなくても良いのですが、せっかくですから強制空冷ヘッドフォンアンプにしましょう。ファンの発する騒音が気掛かりですが、使用する時はヘッドフォンしている訳ですし、12V定格のファンを6.3Vで回せばそれほど気にならないでしょう。
 ところが家に帰って実験してみると、6.3Vでは起動電圧が不足して回転しないのです。手で勢いをつけてやって、一旦回りだすと大丈夫なのですが、これでは実用になりません。そこでヒーターを2本直列にして12.6Vとし、この電源でファンを回すことにしました。もとより風量はそれほど必要ありません。内部の温度上昇を少なくするための保険みたいなものですから、ファンには直流抵抗を入れて少し電圧を落とすことにしました。

 これにて回路が最終決定となりました。回路図はここにあります。

  電源トランスと出力トランスの位置と向きは、誘導ハムに大きな影響があることが分かってきましたから、トランスの配置から決めます。電源トランスに通電して出力トランスに接続したレベルメータで誘導ハムが小さくなる向きを決めます。位置もなるべく離したいところですが、他の部品とのクリアランスもあるので、慎重に検討します。結局、出力トランスはケース側面に取り付けることにになりました。重いトランス類は全部下段に実装して、その上に穴開きアルミ板で棚を作り、真空管やその他の部品を置きます。下の写真は出力トランスと電源トランスを取り付けた下半分のケースです。

 今回部品は全てケース内に収容しますが、真空管の姿はさりげなく見せたいものです。そこで4本の真空管を最前面に並べて配置して、フロントパネルには窓を開けます。しかし素人加工のやすり掛けではきれいな窓を開けるのは困難です。そこでフロントパネルに黒つや消し塗装をしたうえで、アクリル板(スモーク)を被せて共締めにしました。一見すると窓があること自体が分かりませんが、電源スイッチを入れると、ほんのりとヒーターが浮かび上がります。(結構、見栄えにはこだわるんです。)

 部品は例によってユニバーサル基板に実装します。今回は電源部とアンプ部の2枚です。下の写真でアンプ部基板の配置が少し曲がって見えるのは、ずぼらして、基板の取り付け穴と棚板の穴がそのままで合うように、取り付け位置を探しているからです。

 ケース上半分を被せて完成! なかなか格好良いでしょう。ボリュームを回すのにヘッドフォンプラグが邪魔にならないように(私は右利き)配置も考えてあります。

 ヒーター電圧、B電圧を順を追ってチェックし、プレートやカソードの電圧に異常がなければ、プレート電流のバランス調整です。今回は電流検出用の抵抗を入れていませんから、電流は出力トランスの電圧降下を見て調整します。ちなみに出力トランスの直流抵抗は左右chともP1側が211Ω、P2側が221Ωでした。カソードに入っている50Ωの半固定抵抗を絞った状態で電流を測定し、バランスが取れるように半固定抵抗を回します。バランスが崩れる方向に動くようなら、反対側の球と入れ替えます。また調整範囲内でバランスが取れない(ばらつきが大きい)時は、左右chで球の組み合わせを変えたり、予備球と交換してみます。電流調整が済んだらここで一旦音を出してみます。大丈夫、ちゃんと鳴っています。入力を1kHzにしてレベルメータを繋ぎ、NFBを掛けてみます。NFBに応じてレベルが下がるので位相も合っています。取り敢えずOKでしょう。

 

特性の測定

 無帰還、8Ω負荷で周波数特性を測ります。いつもは1W出力で測定するのですが、今回はそんなに出力が出ませんから0.1Wで測ります。低域は10Hzで−0.3dB、高域は1dB低下点がLchで25kHz、Rchで22kHzです。1kHzにおける電圧ゲインは予想通り1以下で、Lchが0.684(−3.3dB)、Rchが0.700(−3.1dB)と0.2dB程の差があります。次にダンピングファクタですが、さすがにこちらは苦しくて1kHzで約0.9です。
 このまま無帰還で仕上げる手もありますが、ほんのちょっぴりNFBを掛けることにします。仕上がり利得は0.596(−4.5dB)としました。NFB量はLchが1.2dB、Rchが1.4dBです。この程度のNFBですから周波数特性の改善は極僅かです。それでも高域の1dB低下点はLchが30kHz、Rchが29kHzに伸びました。ダンピングファクタも約1.2に改善されました。残留雑音はLchが0.13mV、Rchが0.09mVです。WaveSpectraで周波数成分を観測してみると50Hzのハムが支配的で、これはトランスの誘導によるものです。電源系はブリッジ整流を行っているので、100Hzの成分となりますが、50Hzよりかなり低い値です。試しにB電源の平滑コンデンサを増やしてみましたが、残留雑音に変化はありませんでした。
 次に歪み率特性を測ります。いつもの弓なり特性ではなく、右肩上がりのシングルアンプみたいな特性です。歪みの成分も2次歪みと3次歪みが同じくらいあり、これまで製作してきた全段差動アンプとはちょっと毛色が違います。5%歪み時の出力はLchが0.33W、Rchが0.28Wとなりました。

 今度は実使用に近い状態として33Ω負荷で測定をしてみます。残留雑音はLchが0.20mV、Rchが0.13mVです。ヘッドフォンを耳に押しつけてようやく「ハムがあるなぁ」程度の雑音ですから、まあまあ合格点でしょうか。電圧ゲインは両chともちょうど1.00です。ダンピングファクタは約4.8となります。負荷抵抗が4倍になっているので値も4倍で、理屈通りです。歪み率の方はちょっとうねうねしていますが見慣れたカーブです。実使用領域の1kHzの歪みは0.1%以下ですが、周波数により差があるのがちょっと気になります。5%歪み時の出力は負荷抵抗が大きくなった分減少するかと思いましたが、8Ω負荷時とほぼ同じです。今回は左右チャンネルのクロストーク特性測定を省略しました。

 特性概要は以下の通りです。

  

L ch

R ch

総合利得(無帰還、8Ω)

0.684 (-3.3dB)

0.700 (-3.1dB)

負帰還量

1.2dB

1.4dB

総合利得(帰還後、8Ω)

0.596 (-4.5dB)

0.596 (-4.5dB)

総合利得(帰還後、33Ω)

1.00 (0dB)

1.00 (0dB)

ダンピングファクタ(1kHz、無帰還、8Ω) 0.88 0.93
ダンピングファクタ(1kHz、帰還後、8Ω) 1.16 1.24
ダンピングファクタ(1kHz、帰還後、33Ω)

4.65

4.95

残留雑音(帰還後、無補正、8Ω)

0.13mV

0.09mV

残留雑音(帰還後、無補正、33Ω)

0.20mV

0.13mV

最大出力(1kHz、歪み5%、8Ω)

0.33W

0.28W

最大出力(1kHz、歪み5%、33Ω)

 0.33W

 0.27W

消費電力

22.5VA (AC 102.4V)

 

 特性図(グラフ)はこちらです。


 

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