6AC5GT全段差動プッシュプルアンプ

(2002年2月:製作、2002年3月:改造、2004年2月:再改造)

 

全段差動プッシュプルアンプとは、プッシュプルアンプの出力段に
定電流回路を挿入し、全てのステージが差動増幅を営むように設計
されたアンプです。この方式について詳しいことは、
こちらをご覧下さい。

 

前書き

 昔々、学生の頃は色々な電子機器を自作していました。と言っても、金がないので大したものではないのですが。会社勤めをするようになってからは、忙しさもあり20年以上も本格的自作は途絶えていました。ところが2000年頃、職場の先輩と話をしていて、話題が管球アンプになりました。なんと余っている真空管をくれると言うのです。有り難く頂いたのは6B4G。貰っただけで死蔵しては悪いから、とにかくアンプを作ろうと思ったのですが、ブランクは長く、いきなりオリジナルは作れそうにありません。たまたま「無線と実験」に6B4Gを使用したキット製作記事があったので、販売元のアドバンスに出力管抜きで売って貰えるか問い合わせて見ました。幸いな事にOKが出たので、工場直送で球なしキットを手に入れました。これが「HC−3」6B4Gシングルです。

 組み上げて使用すると、それまで使っていた半導体アンプに較べて「柔らかみのある落ち着いた音」で、しばらくは満足して聞いていました。しかし時間がたつにつれて、低域のクオリティに不満が出てきました。またボリュームを上げたときに、リニアに音量が付いていかない感じが払拭できません。まぁ、コストの制約もありやむを得ない点かもしれませんが、何とかしたいと考えるようになりました。

 キットを改造するのも手ですが、完全自作にも挑戦したいです。しかし下手に作ったのでは「それなりに」バランスのとれたメーカーキットを上回るのは難しいでしょう。

 情報を求めて管球アンプのサイトを巡る日々が続きましたが、そこで出会ったのがぺるけさんの情熱の真空管。全段差動というコンセプトに痺れ、設計手法が詳細に公開してあるのに勇気づけられました。

 私が全段差動に惚れたのは

    1. アンプ内が一貫して差動増幅によるバランス伝送で回路として美しい。(形式がきれいなものに惹かれてしまうのです。)

    2. ダブルエンド型のプッシュプルであり、出力トランスが必須のコンポーネントである。また本方式のキーとなる出力段定電
      流源の消費電力を考えると、電流が少ない(負荷インピーダンスが高い)ことが望ましい。このため(実質的には)管球アンプ
      でなければ実現できない回路である。

    3. 信号ループが電源系から独立しているので、電源に起因する問題から逃れられる。

と言ったような点で、「全段差動プッシュプル」で行こうとなったのです。

 

設計と製作

出力管が決まるまで

 まずは出力管を決めなければいけませんが、どうせ作るのなら他人と同じものはイヤだ(根がへそ曲がりなんです)と、全段差動の世界ではメジャーな6AH4GTは敬遠しました。「無線と実験」で3C33の製作記事を見て食指が動きましたが、値段が高い(私の基準からすれば)ので没。この流れでプッシュプルに見えない双三極パワー管を探して見ますが、どうにも適当なものがありません。普通の三極パワー管をあたっても、良いものが見つかりません。(まぁ、当然と言えば当然で、使いやすい球だったら皆が使っているでしょう。)

 そうするうちに「無線と実験」2001年12月号のSIDEWINDER欄で最上克紀氏が6AC5GTについて寄稿されているのを見つけました。もっぱらグリッド電圧をプラスの領域にして使う変な(?)球です。特性は三極管と言うよりも五極管、いやトランジスタの様に見えます。(他の三極管でもグリッド電圧をプラスにすれば、同じような特性なのですが、この球はグリッド電圧ゼロの時に殆どプレート電流が流れません。このため常にグリッド電圧がプラスの領域で使用することになります。後からポジティブ・グリッド管と言うのだと知りました。)

 グリッド電圧がプラスなのでグリッド電流が流れます。このため一般的な真空管の高入力インピーダンスと言う特徴はありません。そのためドライブ段には工夫が必要となりますが、ドライバのカソードを直接6AC5GTのグリッドに直結する「ダイレクトカップル」による実験データが紹介されていました。適当なドライバは限られるようですが、それはドライバのグリッドをアース電位に保った場合の話。ドライバのグリッド電位をプラスに引っ張れば、かなり自由に球が選べると思いました。要は6AC5GTのゲート電流を供給する能力があれば良いのです。シングルの場合で簡単に回路を書いてみると以下のようになります。

 この回路はドライバから見れば、負荷はプレート側ではなくカソード側にあり、かつグリッドとアース管に入力電圧が加わっているので、カソードフォロアです。このためドライバによる特性の変動も少ないと思われます。

 この球を差動増幅に使う場合はグリッド電流による影響が心配されます。定電流源はカソードに入れるので、2本の管のプレート電流とグリッド電流の和が一定となり、厳密にはプレート電流の和は一定ではありません。しかしグリッド電圧と電流のグラフを見ると大問題になるほどではなさそうな感じです。それにアースに信号電流が流れ込まない特性は維持できるので、全段差動としてのアイデンティティを損なう事はなさそうです。値段も手頃だし、出力管は6AC5GTに決定しました。ドライバは、こちらもお値段手頃なロシア製6N1Pです。

出力トランスの選定

 データシートによる6AC5GTのシングル動作では負荷インピーダンスが7kΩとなっています。全段差動プッシュプルの場合はシングルの負荷インピーダンスの2倍がプレート間の負荷インピーダンスになる様に設計すれば良いとの事なので、14kΩp-pとなりますが、プッシュプル用トランスには、こんなハイインピーダンスの製品が見あたりません。

 そこで次善の策として4Ω端子を持つトランスを使うことにしました。1次インピーダンス8kΩp-pで2次の4Ω端子に8Ωのスピーカを接続すると16kΩ、6Ωだと12kΩになります。候補はタンゴ(ISO)のFE−25−8かタムラのF485辺りとなりますが、ワイドレンジなFE−25−8の方が全段差動に似合っているような気がしたので、タンゴを選びました。

回路設計

 出力管とトランスが決まったので回路設計に入りました。ぺるけさんのマニュアルや全段差動の広場にある製作例を参考にして回路と定数を決めていきます。

 出力管の動作条件はプレート損失を考慮して、プレート電流35mA、カソードプレート間電圧を250Vにします。この時カソードグリッド間電圧は+14Vで、グリッド電流が5.5mA流れます。このためカソード電流は40.5mA、差動用の定電流回路は81mAの電流値となります。定電流源の素子は簡単で精度の高い可変形3端子レギュレータLM317にします。

 ドライバのカソード電流(=プレート電流)が5.5mAの時、グリッド電圧は−5Vなので出力管のカソードとドライバのグリッド間電圧は、14+(−5)=9Vとなります。これに定電流回路が動作するために必要な電圧を加えてドライバのグリッド電圧(対アース)は17Vとしました。

 出力段のロードラインから見て、ドライバへの入力は25Vrms位必要となります。一方アンプ入力感度を1Vrmsとすれば、前段のゲインは50倍必要(差動回路で位相反転を兼ねるため)です。負帰還の分も加えたゲインを1段で実現するには高μの球が必要となる。そこでμ=100mの12AX7を使い、負荷抵抗は270kΩとしました。動作点が適当になるプレート電流は0.5mA程度です。そこで定電流源は1mAとなりますが、グリッドをゼロ電位に保つとマイナス電源で定電流源を引っ張る必要があります。そこで定電流ダイオードではなく、3端子レギュレータで安定した負電圧を作り、トランジスタ式の定電流回路にしました。

 電源回路は、(余計な放熱穴を開けなくてよいように)余分な電力消費をなるべく抑える方針とします。トランスはノグチトランスのPMC−190Mを選定しました。2次電圧が180−200−220Vと選べて、所要の電圧を得るのに、抵抗のお世話にならなくても済みそうだし、出力電流も190mAと適当です。リップルフィルタには発熱を考えて抵抗でなく、小型チョークを使う事にしました。これもノグチトランスのPMC−115H。インダクタンスはたった1Hですが、100Hzでは628Ωの抵抗と同じ効果があります。それに対して直流抵抗は27Ωです。

 回路図はこのようになりました。

機構設計

 シャシは既製品の使用も考えたのですが、結構高価です。そこで自作することにしました。と言っても、いきなり本格的なものは難しいので木枠に天板(2mm厚アルミ)を乗せる方式にしました。木枠は12mm厚の合板2枚を張り合わせて(なんと24mmの極厚シャシ)作成します。こんなに厚い板にしたのは、内側板の高さを天板の分だけ低くして、天板を落とし込み、トップが面一になるようにするためです。

 部品配置は原則的に左右対称で行くことにしました。見栄えと重量バランスと信号の流れがスムーズに行くように考えます。当初は初めてだからと、天板の大きさを40cm×25cmで設計していたのですが、どうにも間延びして見えるので、幅を縮小して30cm×25cmで再配置しました。ところが売っているアルミ板のサイズは30cm×20cm。これより大きなアルミ板をきれいに切断するのは、腕も工具もないので断念して、これをそのまま使用する事にしました。(実はお店に頼めば切断してくれる事が、後で分かったのですが。)おかげで部品配置は前後左右ともかなりの高密度になってしまいました。入力ボリュームは最初、背面近くに置いてシャフトを延長する計画だったのですが、奥行き減少の影響で配置場所がなくなり、フロントパネルに半分埋め込んだ形となりました。ボリュームに近い位置に初段管を配置すると、あれあれよく見る雛壇形になってしまった。でもまあ、電源トランスが前に出て重量バランスを改善してあるので、これでOK!

 高密度化により、ラグ端子を使用しての部品配置が厳しくなりました。そこでユニバーサル基板に片チャンネルづつ部品を実装することにしました。部品を乗せていくと結構間隔が狭くなりましたが、何とか押し込んで設計は完了。

製作

 さて、いよいよ製作です。最初はユニバーサル基板への部品実装からです。こちらは手慣れたものですが、扱う電圧が高いので、部品間のクリアランスには気を使います。それほど時間を要することなく両チャンネルの基板が完成。定電流源と入力切替用リレーの電源を兼ねるマイナス電源も難なく出来上がりました。

 次は天板加工です。こう言った、機械物はあまり自信がありません。シャシパンチで出力管の穴(30mm)から開け始めますが、なんと2個目で切れ味が悪くなりました。シャシパンチを買うときに確かめた被加工物の厚みはアルミ板で1.6mm、それに対して現物は2mm。何とかなるだろうとたかをくくっていたのですが、手厳しい洗礼です。(実は、穴を開ける時に潤滑油を使っていなかったのも原因です。次作からはCRC5−56を使うようになりました。)

 やむを得ずMT管の穴開けに移ります。こちらは直径(20mm)が小さいこともあり大丈夫でした。出力管とコンデンサそしてトランスの穴開けは、ホールソーを買ってきて続行。2週かけて、何とか完了しました。天板は当初、黒のつや消しとする予定だったのですが、ホームセンターでアルミ建材用ブロンズ色塗料を見つけたので変更。なかなか綺麗な仕上がりとなりました。

 ケース本体は木製ですがカットはホームセンターのサービスを利用します。垂直度や複数の板を切る場合の精度では個人加工はかないません。入出力端子やボリューム用の穴を自分で開けた後、木工用ボンドとコーナークランプで組み立てます。首尾良く天板の厚みを落とし込んだ木製ケースが出来上がりました。仕上げは塗装を考えていましたが、材料がシナ合板からラワン合板に変わった(サイズがなかった)ので、仕上がりが悪くなると考えて、木目ビニールシートに変更しました。しかし、ここで困ったのが正面のボリューム廻り。ビニールシートを円形に折り込んでみますが、どうにも格好悪くなってしまいます。ボリューム廻りはパイロットランプを兼ねて3個の青色発光ダイオードによるイルミネーションを施し、それを活かすためにつまみを少しパネルに埋め込んで取り付ける様にしたので、ここの見てくれが悪くては台無しです。そこでアクリル板(スモーク)によるプレートで、ぼろ隠しをする事にしました。アクリル板に大きな丸穴を開けるのは結構難しく、加工時に割りまくって、3枚目でようやくプレートが完成し、取り付けました。苦肉の策でしたが、結果的にはボリュームつまみの隙間が小さくなり、格好良くなったと思います。

 天板に部品を取り付けて配線に掛かります。箱型のシャシ内と違って、配線がやりやすい。これは正解!(但し一旦木枠に取り付けてしまうと、変わりなくなりますが。) 配線を終え木製ケースに天板を固定し、ケース取り付けの部品との配線を完了。配線チェックを行い、間違いの無いことを確認しました。ケース内部はこんな感じです。

調整

 続いて調整に移ります。まずは真空管を挿さずに電圧チェック、無負荷なのでB電圧は目一杯高いが、特に異常は見られません。次に真空管を挿してチェックします。出力段のプレート電圧がちょっと高かったので、電源トランスのタップを220Vから200Vに変更して再チェック。プッシュプルの電流バランスを取ります。両管合計の電流は85mAと設計値より少し多いが、許容範囲と判断してそのままとしました。

 続いて初段管のプレート電圧を測ったのですが、電源電圧と同じです。「あれれ、プレート電流が流れていないよ!」早速チェックに掛かるが、定電流回路のトランジスタのエミッタとベースが逆になっていました。う〜ん、恥ずかしい。昔はリード配置を暗記していたのに!

 念のため別のトランジスタに交換してチェックします。今度は悪いところはなさそうです。スピーカ端子に変な電圧も出ていないので、負帰還なしの状態で入力とスピーカを接続して音を出してみます。無事に音が出た時は、感無量。これはキットの時には感じなかった完全自作ならではの醍醐味です。

 負帰還量調整の半固定抵抗を回して見ると、ちゃんと音量が小さくなりますから、負帰還の位相は合っています。スピーカからダミー抵抗に接続変更して、測定を開始。入出力特性を見ながら負帰還量を増していきますが、6dBまでしか掛かりません。裸ゲインと帰還抵抗値(2.2kΩ/100Ω)から、これが限界なのです。6dBの帰還ではダンピングファクタが1.5程度であり、入力感度を見ながらもう少し帰還量を増したいところです。この辺は設計の未熟さを痛感しました。代替の抵抗が手持ちになかったので、調整は一旦終了。

 次の週末に負帰還抵抗を2.2kΩから1kΩに変更して再び調整を行ないます。入力感度、ダンピングファクタそして聴感から、負帰還量は約10dBとしました。

 この時点で音の印象は、分解能が高くひとつひとつの粒だちがはっきりしている感じで、気に入っていました。

 反省点は、デザインの左右対象性と見てくれにこだわるあまりスイッチを、(熱くなる)真空管のすぐ傍に配置してしまった点です。製作者は気を付けて操作しますが、一般的にはまずいですね。それと信号線の引き回しを考えて入力切替にリレーを使ったのですが、一般的な電力用のものを使用したために、後で接触不良が発生しました。そのため小信号用のものに交換して、事なきを得ています。

改造1

 グリッドを常にプラス電圧にして使用する6AC5GTは、常にグリッド電流が流れているため、カソードに定電流源を挿入する差動プッシュプル回路では、プレート負荷に流れる電流の和は厳密には一定ではありません。完全な差動にならないのは承知の上で製作を始めたアンプでしたが、その点が心の隅で引っ掛かっていたのも事実です。そこでいとも簡単に決めてしまった(なにしろ直結で、他に素子はいらないのですから)ドライバの動作を洗い直して見ることにしました。すると思ったより複雑な動作をしています。ドライバのグリッドに信号が入力された場合は、[6AC5GTのグリッド電圧=ドライバのカソード電圧]を決めるのは、入力信号からG−K間電圧を差し引いたものになりますが、6AC5GTのグリッド電流が非線形に変化するので、通常のカソードフォロアのようにはなりません。

 シングル回路で色々と計算してみましたが、ドライバの種類によっても感度等の特性が少し変わってきます。差動プッシュプルの場合は差動回路による電流制限が効いてきますので、更に複雑になりますが、何れにせよドライバを替えるのでは、完全な差動動作は望めません。

 それではドライバのプレートをB電源ではなく、出力管のプレートと直結にすればどうでしょうか。トランジスタで言うとダーリントン接続のような感じです。これだとドライバのプレート電流も負荷に流れますから、ちゃんと差動になります。回路図で示すと以下のような結線です。

 トランジスタで言うとダーリントン接続と言いましたが、真空管ではこれに似た有名な回路がありました。「超三結」です。動作はちょっと違いますが、出力管のPG間に三極管が入って、三極管のrpによりPG帰還が掛かる点は同じです。このため電圧ゲインが低下しますが、ここで困った問題が発生します。プラス電圧が入力されて出力管のプレート電流が増加した場合、グリッド電流も増加します。ところがこのグリッド電流を供給するドライバ管のプレート電圧は、出力管のプレート電圧と等しいので、当然プレート電流が増加すれば低下します。つまりドライバ管には低いプレート電圧で電流をたくさん流せる特性が要求されるのですが、その様な球はrpが低いので帰還量が増して、ゲインが低くなります。出力を優先するとゲインが足りなくなるのです。6N1Pと12BH7Aの場合について、計算した特性を下表に示しますが(あくまでもEp-Ip曲線から図式的に求めたもの)、プレート電圧が低下した場合のドライブ能力不足は明らかです。

プレート電圧変化
(出力振幅)

原形回路グリッド電圧変化
(入力振幅)

変更回路グリッド電圧変化
(入力振幅)

6N1P

12BH7A

6N1P

12BH7A

-200   

15.9   

18.7   

 

 

-175   

12.3   

14.7   

 

 

-150   

10.3   

12.5   

 

17.8   

-125   

8.3   

9.9   

 

15.2   

-100   

6.5   

7.5   

8.2   

12.5   

-75   

4.8   

6.0   

6.4   

9.6   

-50   

3.2   

4.1   

4.4   

5.7   

-25   

1.6   

2.0   

2.3   

3.1   

0 (DC250V)

0.0   

0.0   

0.0   

0.0   

25   

-1.4   

-2.3   

-1.8   

-2.9   

50   

-3.2   

-4.4   

-3.8   

-5.8   

75   

-4.7   

-6.5   

-6.1   

-9.4   

100   

-6.0   

-8.6   

-8.0   

-12.9   

150   

-8.1   

-11.3   

-10.1   

-15.9   

150   

-10.1   

-13.6   

-12.8   

-20.6   

175   

-12.7   

-15.7   

-15.6   

-25.2   

200   

-15.0   

-17.9   

-18.4   

-32.3   

 ドライバを五極管にすれば解決!と思われるかもしれませんが、スクリーングリッド電流の変動があります。これがあると完全な差動にならず、元の木阿弥です。ドライバを高耐圧のMOS−FETにすればおそらく大丈夫でしょうが、入力管からみた負荷容量の検討が必要になると思われます。

 と言っても、まずはこの方式でどんな音が出てくるのか実験しましょう。ドライバは6N1Pのままで、プレートの接続をB電源から出力トランスの端子に替えます。電圧と電流をチェックして異常が無いことを確認し、音を出してみます。

 出てきた音を聞いた時には驚愕しました。グンと定位が良くなり、音が生き生きしてきました。このため今まで埋もれていた音が明瞭に聞き取れます。集中せずに聞き流しても、これだけの違いが分かるのですから、本当に驚きです。う〜ん、これが全段差動の実力であったか!

 歪み特性を測ってみると5%歪み出力が2.5Wと、元の半分以下になってしまいましたが、この音を聞いたからにはもう元には戻せません。

 しかしこのままでは出力管の実力を出し切ってないので、なんとかもう少し出力を確保したいものです。そこでドライバを特性を検討した12BH7Aに変更することにしました。(これで満足がいかなければ次はMOS−FETです。)ピン回りの配線変更とグリッドバイアスを変更しました。出力管の動作点はそのままです。各部電圧を測り、電流バランスを調整して、音を出してみます。大丈夫なようです。

 特性を測ってみると、予想通りゲインが低下しています。このため負帰還量は約6dBとなりました。5%歪み出力は8Ω負荷で約4Wとなりました。

 ドライバ管を差し替えた外観が以下のものです。

 後ろから見るとこんな姿です。

改造2

 12BH7Aをドライバに使用することで、まずまずの結果を得たので、この状態で約2年ほど使用していました。しかしドライバの特性から出力管ロードラインの下の方を使っていません。これを改善するには動作点を見直す事です。6AC5GTのプレート損失からプレート電圧を今以上に上げるのは望ましくありません。このため出力トランスを交換して負荷インピーダンスを下げることにしました。こうするとロードラインが立ってきますから、大電流時のプレート電圧が少し高くなります。新しいトランスは同じシリーズのタンゴFE−25−5です。使い方は前と同じで出力側4Ω端子に6〜8Ωのスピーカを接続します。このためインピーダンスは8Ωスピーカ使用時で10kΩp-pとなります。これにより最大出力は5.1Wに増加しました。6Ω負荷だと5.4Wです。この動作条件だと6AC5GTを使い切っていると言ってもいいと思います。これで決定版にしましょう。最終版回路図はこちらです。

改造後の出力管特性のシミュレーション

 12BH7Aを6AC5GTに直結することで、局部帰還が掛かりますが、この時の出力管のEp−Ip特性をSPICEでシミュレートしてみました。結果はこちらです。

特性の測定

 特性概要は以下の通りです。

 

L ch

R ch

総合利得(無帰還、8Ω)

11.89(21.5dB)

11.61(21.3dB)

負帰還量

6.5dB

6.3dB

総合利得(帰還後、8Ω)

5.62(15.0dB)

5.62(15.0dB)

ダンピングファクタ(1kHz、無帰還、8Ω) 1.07 1.05
ダンピングファクタ(1kHz、帰還後、8Ω) 3.18 3.05
残留雑音(帰還後、無補正、8Ω)

0.17mV

0.15mV

最大出力(1kHz、歪み5%、8Ω)

5.1W

5.2W

消費電力

71.9VA (AC 101.6V)

 

 特性図(グラフ)はこちらです。


 

おまけ

 ひとつの物が完成すると、すぐに次を考えだして(これが楽しい)しまいます。頭の中にあったのはヘッドフォンアンプだったのですが、「まてよ、5W位の出力のアンプなら抵抗で分割してやればいけるのでは?」と考えて作ってみたのが、このヘッドフォンアダプタです。私のヘッドフォンはオーディオテクニカのATH−AD7(公称インピーダンス32オーム)なので下記の定数でアンプ出力が5Wの時、ヘッドフォン入力は19mWとなります。聴取時のボリューム位置もスピーカーの場合と大体同じです。
 残留雑音も気にならないので、1台で2度美味しい!?

 


 

  オーディオ Topへ