6CL6三結 差動プッシュプルアンプ

(2004年12月製作、2005年1月改造)

 

 

前書き

 以前にARITOさんのHPでヒントを貰った5842差動ヘッドフォンアンプを製作しましたが、実はもうひとつ気になっていた球がありました。それは6CL6です。プレート損失7.5Wの五極管ですが、三極管接続にした時に、感度が高く直線性も良いようです。普通であればこの感度の高さを活かして、中μの初段管を使用した2段アンプを考えそうなものですが、私が思ったのは「おっ、OPアンプで十分にドライブできるじゃないか!」でした。かくしてOPアンプドライブ+6CL6三結差動出力段アンプを作ることになりました。

 

設計

 最初はOPアンプで強力(低インピーダンス)に出力管をドライブできるので、それを活かして広帯域アンプを目指していましたが、、ここで謎のキーワード「ワイドラー」に出合ってしまいました。詳しくはDaluhmannさんのページにありますが、素人解釈で簡単に言えば、負帰還を安定に掛けるために、無帰還時の高域周波数特性を意図的に落とす手法です。と言っても漫然と周波数特性を悪くするのではなくて、複数段の増幅回路のうち一段の特性(ポール・極)を落として全体的には6dB/OCTで降下する特性を作ります。実は今回ドライブ用に使うOPアンプがまさにこの特性です。半導体アンプではこれは常識らしいのですが、真空管アンプでは、出力トランスと言う厄介なものがありますから、せいぜい「ワイドラー風」がいいところのようです。それでも面白そうなので、考え方を取り入れてみます。

 ポールを落とすのはどこにしましょう?やっぱり出力段ですね。なにしろ真空管ワイドラー風アンプですから。ポール低下の手法は微小容量で、出力管にP−G帰還を施すのが、簡単です。でも、待てよ。P−G帰還を使った場合のポールは、増幅度と容量そして入力インピーダンス(=ドライバの出力インピーダンス)で決まるんじゃなかったっけ!? OPアンプだと出力インピーダンスが低いから、そう簡単にはポールが下がってくれないぞ。あはは(笑)、回路構成に自己矛盾が生じてしまったじゃないか。

 うーん、OPアンプドライブの特徴を損なわない程度にドライバとグリッド間に抵抗を入れる事にしましょう。この辺りの値は、最終的にはカット&トライで行くことになりそうな予感がします。(実際、その通りになりました。)

 出力トランスは安価なイチカワのITPP−10W(8kp−p)としました。電源トランスは例のごとく、東栄の100V−200V絶縁トランスZT−03ESです。後はチョイチョイといつもの部品を使用して、ハイ、回路は出来上がり! 回路図はここです。部品定数と各部電圧はワイドラー関連を除いて最終的なものを記載しています。また当初は入力のローパスフィルタは入れませんでしたが、この辺の経緯は調整編で!

 ワイドラー関連の部品定数は大体、次のように考えました。まずOPアンプによるドライブ段の利得が約90となります。6CL6による終段の電圧ゲインがおよそ12〜15程度、出力トランスの変圧比が1/33、トランス等を含めたロスが0.9と仮定します。すると全体のゲインは29(29.2dB)〜37(31.4dB)程度になります。仕上がりゲインをいつものように7(16.9dB)程度とすれば、オーバーオールのNFBは12dB〜14dB程度です。きっちりとポールの分離が出来ていれば、最低のポールを10kHz程度に持っていっても大丈夫(なはず)です。このポールを決めるのは出力管のP−G帰還の容量C1(ミラー効果を含む)と入力インピーダンス(≒R)です。C1を100pF、Rを10kΩとすれば、11〜15kHz程度になると思われます。これでもトランスの周波数特性から考えられるポールから充分に離れているとは言いがたいので、オーバーオール負帰還抵抗に抱かせているC2も併用して、位相余裕を持たせます。C2の値は調整で決めます。

 

製作

 シャシデザインはちょっと迷います。剥き出しにしても大丈夫なのは出力管4本と出力トランス2個くらいです。拙作の50BM8のように回路基板をさらす手もありますが、今回はヒータートランスがあるので、下部が不恰好になりそうです。(デザイン面では、何回も同じ手を使いたくないし) そこで電源部をアンプ部と別筐体にすることにしました。こうすると出力トランスと電源トランスの距離を稼げるので、ノイズの面でも有利です。出力管と出力トランスの搭載できるケースとしてタカチのYM−200(200×150×40)を選定して、それと大きさ(平面)の同じシャシに電源を組み込みます。見つけた市販品の関係で高さ(80mm)に余裕があり過ぎますが、やむを得ません。アンプ部ケースの上面配置は簡単なのは左右対称ですが、少し変化をつけて点対称配置にしてみました。

 電源部から製作を始めましたが、電源トランスは磁束の洩れ方向を考慮してシャシ側面に取り付けます。シャシの色はありふれたつや消し黒ですが、これはアンプ部とのマッチングを考慮したからです。ケースに余裕があるので、簡単に出来上がりました。



電源部の内部です。ご覧の通りスカスカ。
 

 アンプ部は高さ方向の余裕が少ないので、実装には気を使います。またケースの構造上、上部に搭載する出力管周りとその他の回路を接続する配線の取りまわしを長くしておかないと、メンテナンス時に大変です。まあ、これは本来真空管用でないケースを使用しているので仕方ありません。アンプ部も特にトラブルなく出来上がりました。



部品は多くないのですが、ケースの構造上、配線がごちゃごちゃ。
 

外観はこんな感じです。
 

調整と特性測定

 製作が進み配線・各部電圧チェックも順調に行きました。ワイドラー風で仕上げる前にRとC1を除き、それにC2も付けない状態で音を聞いてみると、取り敢えずは大丈夫。低域が印象的で、細かいところまではっきり分かります。トータルNFBが多めなので、10kHz方形波を入れて、波形観測をします。リンギングは大きいものの、発振はしていません。ところが負荷をオープンにすると見事に発振。まぁ、まだ何も位相補正を掛けていませんから。

 次にワイドラーの要となるC1とRを実装しました。ここでトラブル! 負荷抵抗(6Ω)を接続していても発振するのです。ありゃりゃ、C1のせいかなと思って、Daluhmannさん流にC1に100Ωを直列に接続してみてもだめ。色々やっていくうちにC1を入れた状態でもRを小さくすれば発振しない事が分かりました。大体3.3kΩであればOKです。でもこれではポールが高域に行ってしまいます。トータルNFBなしで周波数特性を測ると、3dB低下点は約25kHzです。C1を150pFにしてみると約17kHzとなりました。高域の減衰率が6dB/octより大きいので、当初予定の10kHzまで低くするとトータルNFBを掛けた時の周波数特性が可聴帯域フラットになりそうもありません。そこでC1は150pFに決定です。音を聴いた感じと方形波応答、負荷オープン時の安定度を見ながらC2を決めます。結局、300pFにしました。でも、負荷抵抗接続時は方形波のオーバーシュートは一発で収まるのですが、オープン時には強めのリンギングがあります。C2をもっと大きくすると、なんだか音がつまらなくなってきます。

 定数を一応決めたので周波数特性を測ってみます。すると30kHz辺りに1.5dBのピークあります。NFBを掛けて周波数特性が持ち上がるのは、ちょいとやばそうな感じですが、それから上は素直に落ちており暴れはありません。ところが180kHzを入力すると約60kHzで発振を始めてしまいました。但し、振幅は比較的小さいうえに、180kHzの入力を切ると、ピタリと止みます。測定用の入力を10dB程低くすると、発振しません。一体全体なんなのでしょう?

 対策を色々と考えたのですが、根本的な原因が良く分からないので対症療法をとる事にします。つまり超高域の入力レベルが低ければ発振しないのですから、入力にローパスフィルタを入れるのです。ついでに30kHz辺りのピークを抑える役目も持たせましょう。但し、ボリュームがあって入力インピーダンスが変化するのでローパスフィルタのカットオフもボリューム位置により動きます。この影響を小さくするためにローパスフィルタの定数は22kΩと100pFにしました。この対処が大当たり、超高域の大入力にも発振しませんし、負荷オープン時の方形波リンギングも随分と小さくなりました。

 なぜこんな現象が起きたのかは、後で左右チャンネル間のクロストーク(セパレーション)を測定している時に明らかになりました。右チャンネルの出力管のすぐ近くにボリュームがあるために、RからL方向のクロストークがかなり悪かったのです。もちろんボリューム周りは両チャンネルが接近していますから、反対チャンネルに洩れる信号は自分自身の入力にも飛び込み、それが限度を超えた時に発振に至ったものと思われます。中域からクロストークが悪かったのはRからL方向でしたが、超高域では両方向とも同程度になるので、同じように発振していたのです。

 なおクロストークの方は、プレート周りの配線を極力ボリュームから離したうえでボリュームをアルミ箔で簡易シールドして、改善しました。特性概要を以下に示します。(記載のないものは6Ω負荷)

 オーバーオールNFBなしの利得は約31ですから、製作前に計算した値とほぼ一致しています。最大出力は約3Wでこれも予定通り、大振幅時には6Ω負荷・8Ω負荷のどちらでも、きれいに上下対称で歪んで行きます。強力なOPアンプドライブのためだと思います。

 

L ch

R ch

総合利得(オーバーオール無帰還)

31.1 (29.85dB)

31.3 (29.9dB)

オーバーオール帰還量

12.95dB

13.0dB

総合利得(オーバーオール帰還後)

7.0 (16.9dB)

7.0 (16.9dB)

ダンピングファクタ(1kHz、帰還後) 8.93 9.00
残留雑音(帰還後、無補正)

0.13mV

0.13mV

最大出力(1kHz、歪み5%)

2.9W

2.9W

最大出力8Ω時(1kHz、歪み5%)

3.3W

3.3W

消費電力

55.6VA (AC 102.7V)

 特性図(グラフ)はこちらです。

 

改造

 出力管へP−G帰還を施してポールを作る手法で、ワイドラー風アンプを製作しましたが、良く考えてみるとドライバにOPアンプを使っているのですから、最も低いポールはこちらで持たす方が自然です。でもOPアンプをそのまま(裸で)使うとゲインが高すぎます。出力トランスが入っているためにオーバーオールで直流帰還は効きませんし、出力トランスの特性が暴れる周波数領域で過大なゲインがあるとオーバーオール帰還が安定して掛からないでしょう。そこでOPアンプによる直流ゲインを1000〜2000倍(60〜66dB)に設定し、可聴帯域以上(かつトランスの特性が暴れる周波数以下)でループゲインが1以下になるようにドライバの特性を設定します。まずは下記のような定数で回路を組んでみました。

 ところが出力に直流が1.5〜2V程、出てしまいます。出力管に直結するとこの影響で電流バランスが崩れます。これは多分OPアンプの入力バイアス電流の影響だと考え、バイポーラ入力のNJM5532から、J−FET入力のOPA2604に替えました。これで直流出力は100mV以下になりました。利得の周波数特性は以下の通りです。

  ほぼ所要の特性が得られているので、アンプに組み込んでみます。組み込んだ回路はこちらです。各部チェックの後、音を聞き、10kHzの方形波チェック。大丈夫です。周波数特性を測ってみると20kHzで1dB低下です。試しにOPアンプに抱かせているコンデンサを0.001μFから0.0015μFにすると20kHzで5dBも低下してしまいます。逆に470pFにしてみると30kHzに3dBのピークが出てしまいました。但し、これは使用した出力トランスのスペックが30kHzで3dB低下となっていますので、トランスの位相回転が効いているのだと思います。もうちょっと高域の伸びたトランスなら楽かも? いずれにせよ、OPアンプドライバの設定はどんぴしゃり!大当たりだったようです。

 改造後の特性概要を以下に示します。やはり記載のない項目は6Ω負荷のデータです。やはり目を惹くのはダンピングファクタでしょうか。管球式アンプとは思えない値ですね。(まあ、ハイブリッドアンプなんですが。)

 

L ch

R ch

総合利得(オーバーオール帰還後)

9.8 (19.8dB)

9.8 (19.8dB)

ダンピングファクタ(1kHz、帰還後) 83.3 83.3
残留雑音(帰還後、無補正)

0.12mV

0.12mV

最大出力(1kHz、歪み5%)

2.7W

2.8W

最大出力8Ω時(1kHz、歪み5%)

3.3W

3.3W

 改造後の特性図(グラフ)はこちらです。

 


 

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