6EM7全段差動プッシュプルアンプ

(2004年4月:製作)

 

 

前書き

 全段差動プッシュプルアンプを中心に製作を重ねて来たのですが、そんなにたくさん作っても使う場所がありません。そろそろレベルアップに向けて研究をしたいところです。そこで今回は以下のテーマを設けて、製作する事にしました。

 全段差動アンプにおいて

  1.出力段定電流回路の形式によって、音はどう変わるか。

     真空管の非直線性により、カソードに挿入した定電流回路の両端の電圧はダイナミックに変化します。このため定電流回路によって音が変化すると言うレポートがあります。これを自分の耳で確かめようと思います。

  2.電源コンデンサの容量によって、音はどう変わるか。

     全段差動アンプでは信号ループが電源のコンデンサを含まないので、電源としてはリップル抑圧に必要なコンデンサ容量で充分なはずですが、これも容量を増やすと音が変化すると言うレポートがあります。こちらも自分の耳で確かめます。

 

設計

 今回使用する真空管は6EM7です。これは電圧増幅と電力増幅用の三極管が入った複合管で、ぺるけさんの「Building My Very First Amp講座」でも推奨(但し、完全なへそ曲がり派向け)されていた球です。この球を選んだのは4本でステレオプッシュプルアンプが作れるからです。シャシは例の標準シャシを使います。すると球を立てるスペースが2本余るのですが、ここに電源コンデンサの容量可変システム(名前だけは大袈裟!)を構築します。(実は掲示板で、6EM7を使うなら余った穴に電解コンデンサを立てましょうと、発言した事があったので、それの実践の意味もあります。)

 6EM7の場合は低めの負荷インピーダンスが適していますから、出力トランスには6B4G差動から降ろしたRX−40−5(ソフトン)を使用する事にします。シャシや電源トランスは6BX7GTpara差動アンプからの流用です。(つまり6BX7GTparaは解体により現存しません。)

 出力段の動作点は190V、50mA位が望ましいのですが、これだと出力段だけで200mAですから電源トランスのPMC−190M(ノグチ)の定格オーバーです。もうちょっと控えめにして180V、48mAを選定しました。これでもちょっと電流が多いのですが、この程度であれば電源トランスに触って火傷したなんて事態にはなりません。(でも定格オーバーは自己責任です!)

 ちょっと考えたのは電圧増幅段の動作です。出力段用のB電源に更にリップルフィルタを入れたのでは、電圧が低くなってしまいます。そこで電源トランスの別タップを利用して、出力段より高い電圧を掛ける事にしました。これは平滑容量の可変システムを出力段に限定して、実験結果を分かりやすくする目的もあります。

 定電流回路はステレオ分を1枚の基板上に作成し、コネクタによって差替可能とします。基板は以下の3枚を製作します。

  1.おなじみLM317によるもの

  2.小信号用FETによる定電流回路の電流値をブーストするためにPNP型トランジスタを使用したもの

  3.NPN型トランジスタによるもの、但しベース電圧を固定とOPアンプで制御する高精度タイプに切替可能。

 つまり3枚で4通りの定電流回路が試せます。

 その他の設計はオーソドックスに纏めました。回路図はこちらをご覧下さい。各定電流回路も記載してあります。

 

製作と調整

 製作はまず定電流回路から組み立てます。でも部品配置を検討したのは、一番複雑な高精度タイプのみ。後は余裕があるので、目検討で行きます。出来上がった基板は以下の通り。LM317によるものは、ほぼ計算通りの電流値が出るので、電流可変VRはありませんが、FET式にはLR独立で可変VRが、高精度タイプにはベース電圧を固定した時とOPアンプ制御した時で、電流値に差が出るので、LR共通の可変VRがあります。


後方左:FET+Tr  後方右:LM317
前方:高精度タイプ

 その他は以前の6BX7GTのパーツを活かしながら製作を進めます。電源の平滑回路はシャシ内に47μF+5H+33μFのπ型フィルタを構成しています。更にUSソケットに取り付けた、プラグインコンデンサをシャシ上に実装し、このコンデンサを抜き差しすることで、平滑容量を可変します。プラグインコンデンサの写真は下記の通りで、電解コンデンサは390μF。評価用(そのため端子が剥き出し)のフィルムコンデンサは40μFです、電解コンデンサは、プラグをエポキシ系接着剤で取り付けてあります。

 出来上がったアンプの内部写真(出力段定電流回路を外した状態)は以下の通りです。

 

 定電流回路を組み込んだ部分のクローズアップはこの通り。これを差し替えます。

 

 外観(正面から)はこんな感じです。出力トランス(ソフトン RX−40−5)はケースをブルーメタリックに塗装しました。

 組み立てが完了して、定電流回路の電流値の調整と出力段の電流バランスを取り、各部の電圧をチェック。音出しは一発でOK。特性測定に移ります。純容量負荷に対しても実に安定しており、今回はノートラブルかと思ったら・・・ 残留雑音がRch0.13mVに対してLch0.54mV。何じゃこりゃ? ノイズ成分は50Hzなのでアース周りのトラブルで電源トランスの磁束を拾っているのかな。 アース周りを丹念にチェックするがミスは見つかりません。入力ピンジャックがシャシに接触している 事もない。配線を動かしてみても効果なし。お手上げか? そこで試しに真空管を左右入れ替えて見ると、ありゃりゃ、ノイズも入れ替わっちゃった。ヒーターハム? ペア球ってのを買ってきたので、予備は買ってないし、まぁ0.54mVなら我慢しようかな。でもその前に球の組み合わせを変えてみましょう。

 すると、あれまぁ「すっと」小さくなったじゃないですか。色々と組み合わせを変えると左右とも0.14mVに抑える事が出来ました。当初のプッシュプル間バイアス電圧差は1V程度だった(この点ではよくペア取りがしてあった)のですが、この変更でRchのバイアス差は1.2V、Lchは調整範囲一杯の4.7Vとなってしまいました。

 この後特性を取ったのですが、左右チャンネルで歪み率に大きな差がある訳でもないのでこのままで行きます。(教訓:マッチド・ペアを、盲信してはいけない!)

 

比較試聴

 製作が終了したので、仕上がりゲインを決めてNFBを掛けましたが、特性データは最終状態(コンデンサや定電流回路)で行うこととして、これからが差し替え実験による音のレポートです。まずは電源コンデンサの容量から

 試聴方法は、

  ・最初にプラグインコンデンサ無し(47μ+5H+33μ)で音を聞きます。
  ・一旦電源を切り、電解プラグインコンデンサ(390μ)1個を整流器側か出力側に入れて音を聞きます。
  ・これを何回か繰り返して、音の印象をメモして行きます。
  ・次に電解プラグインコンデンサ1個を整流器側と出力側に入れた状態で交互に聞いて、音の印象をメモします。
  ・更に電解プラグインコンデンサを2個入れた状態と1個の状態で交互に聞いて、音の印象をメモします。
  ・今度は電解コンデンサ(390μ)とフィルムコンデンサ(40μ)を差し替えて、音の印象をメモします。

 これを纏めたものが下記のレポートです。純A級動作で電源電流が変動しない上に電源コンデンサが信号ループに含まれない全段差動アンプですが、予想外の音の違いがあります。但し、この結果は1台のアンプによる個人の主観評価ですから、その事をご承知おき下さい。

 電解コンデンサを増量すると

  ・音量が大きくなったように感じる。
  ・余韻が綺麗になる。
  ・低域が引き締まる。(例えばオルガンの低音部)
  ・分解能が良くなる。

 全般的には1個のコンデンサを入れる場合出力側に入れた方が、効果が大きいようです。但し、分解能に関しては整流器側に入れた方が良いような気がしました。コンデンサを2個(整流器側と出力側に)入れた場合は、1個の場合よりも少し良くなる感じです。

 次に電解コンデンサ(390μ)とフィルムコンデンサ(40μ)の差し替えですが、これは私の耳では「何となく違うかなぁ」程度で有意な差を聞き分けられませんでした。逆にフィルムコンは小容量なのに健闘していると言えるかもしれませんが、図体は大きいので大容量電解コンデンサをフィルムコンデンサに置き換える意義を見出せなかったと言うところです。結局、このアンプとしては電解コンデンサを2個入れる事で落ち着きました。

 結構やっかいだったのが、定電流回路の違いによる音の変化です。確かに違いはあるのですが、巷で言われているよりは小さい感じがしました。これも2つの方式を交互に聴きましたので、以下に2つの方式の比較による後者の印象を記します。

  LM317 vs FET   音離れが良く、分解能が高い。

  LM317 vs 高精度  ソースに含まれるノイズが滑らか。打楽器がクリア。余韻が綺麗。

  高精度 vs FET    打楽器が僅かに引っ込む。

  高精度 vs 単純Tr   ソースのノイズがちょっと引っ掛かる

  FET vs 単純Tr    殆ど同じだが、少しぼんやり感がある

 と言う感じで、一番良いと感じた高精度タイプを5点とすれば、FETが4.8点、単純Trが4.7点、LM317が4.6点と言った感じです。LM317はランクとしては最下位になりましたが、差は僅かだと思います。(点数は5点と4点だと明らかな差があるイメージ) それに抵抗1本で電流値がちゃんと決まる利点がありますので、「Building My Very First Amp講座」での採用も納得出来るところです。(この実験で明らかな違いがあれば、既存のアンプも改造しようと考えていたのですが、止めました。)

 

特性の測定

 特性概要は以下の通りです。(記載のないものは6Ω負荷) 無帰還時の利得が低いので、仕上がり利得をどの程度にするか迷いましたが、ダンピングファクタの面(約3を確保する方針)から12dBとしました。ちょっと感度が低いですが、実用上は問題ありません。

  

L ch

R ch

総合利得(無帰還)

5.62 (15.0dB)

5.19 (14.3dB)

負帰還量

3.0dB

2.3dB

総合利得(帰還後)

3.98 (12.0dB)

3.98 (12.0dB)

ダンピングファクタ(1kHz、無帰還) 1.96 1.92
ダンピングファクタ(1kHz、帰還後) 3.22 2.90
残留雑音(帰還後、無補正)

0.14mV

0.14mV

最大出力(1kHz、歪み5%)

5.0W

4.5W

最大出力8Ω時(1kHz、歪み5%)

5.4W

5.3W

消費電力

75.1VA (AC 102.5V)

 6Ω負荷で最適化したつもりだったのですが、結果的に8Ω負荷の方が最大出力が得られています。データシートから引いたロードラインよりバイアスが深めに出ていますので、実物の特性は8Ωの方がマッチしているようです。まぁ、この程度は気にしない事にします。

 特性図(グラフ)はこちらです。

 

その他

 このアンプは現在(2013年10月)、蔵王の麓のチェンバロ製作者のお宅で鳴っています。


 

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