6G−A4(信号ループ最短化)シングルアンプ

(2004年2月:製作)

 

 

前書き

 手元にキットの残骸のシングル用出力トランスが2個あります。そして今では稀少品となってしまった6G−A4も2本(だけ)あります。これはもう「シングルアンプを作れ!」と言う天の声みたいなものですが、差動プッシュプル党としては、普通のシングルアンプではつまりません。そこへまたまたぺるけさんが、シングルアンプの信号ループ最短化を含めた面白そうな試みをやっておられます。こいつをちょっと追試してみましょう。

 

設計と製作

 出力管は6G−A4で決まりなのですが、実は出力トランスの仕様が良く分かりません。そこでまず変圧比を調べてみました。するとちょうど20:1でした。1次インピーダンスは2次側8Ωの時に3.2kΩとなります。元々6B4Gシングルに使用してあったトランスですから、こんなもんでしょう。そこで負荷3.2kでロードラインを引いてみます。Ep−Ip特性は、6G−A4の元になった6BX7GTのデータを使います。動作点は250V、40mAとします。プレート損失はジャスト10Wです。6BX7GTは単ユニット損失が最大10Wとなっていますが、6G−A4は13Wです。6BX7GTの片ユニットを独立させた筈なのに、この違いは何でしょう。実際に13W喰わせるとかなり熱くなるそうです。スペック的に無理をしているのかも。まぁ、いずれにせよ10Wなら大丈夫でしょう。バイアスは大体17V位と読み取れます。

 出力段に入れる定電流回路は40mAで17Vですから0.68Wの損失となります。おなじみの3端子レギュレータLM317Tでも充分いけるのですが、電源投入時に信号ループ用のコンデンサを通して定電流回路に高圧が掛かります。LM317Tの耐圧は35Vなので何らかの対策が必要です。B電源の遅延回路(これまたキットの残骸が手元にあります)を使うのも手ですが、ここは定電流回路に高耐圧トランジスタを使って、瞬間的に高電圧が掛かっても大丈夫なように(ずっと高圧が掛かると発熱でやられますが、すぐに下がるのでOK)しました。トランジスタ式の定電流回路はベース電圧を安定化する必要がありますが、ここには一般的なツェナーダイオードではなく発光ダイオード(緑)を使いました。発光ダイオードの順方向電圧には温度依存性がありますが、トランジスタのB−E間電圧の温度依存性と大体同じなので、うまくキャンセルされます。つまり定電流回路の温度特性が良好になる訳です。

 初段は何にしましょうか? 6BX7GTpara差動プッシュプルを作った時に、高域があまりに落ちるのでクロス中和をして補償しましたが、今回はシングルなのでその手は使えません。親類筋の球なので設計段階から考慮しておきましょう。ここはやはり王道! 低インピーダンスで出力段をドライブするに限ります。内部抵抗が低くてμの高い球と言う事で、ヘッドフォンアンプに引き続いて5842WAの登場です。しかしこの球も内部抵抗の低い領域で使うにはある程度電流を流してやる必要があります。そのためにプレート負荷抵抗を小さくすると電圧増幅度が下がります。そこでぺるけさんと同じように定電流負荷としました。電流を7mA程度流したいので、定電流ダイオードでは、熱的にちょっと厳しそうです。そこでこちらもトランジスタ式としました。こちらはプレートに挿入するのでPNPの石を使います。初段のカソードバイアスは一般的なセルフバイアスとし、充電池方式は採用していません。もっともセルフバイアスと言ってもプレート電流は定電流回路で縛られているので、動作点が動くだけですが・・・・。一方この特性を利用してカソードに入れる負帰還用抵抗を半固定にして無帰還から連続的にNFBが掛けられるようにしました。

 電源の方は大体100mA程必要なので、ノグチトランスのPMC−100Mにしました。ヒーターも2Aが3組あるので、もし6G−A4がダメになった時には6BX7GTも使えます(配線変更は必要ですが)。但し、今回はヒーター巻線の1組を1次側に入れて出力電圧を少し下げています。我が家の電源電圧が少し高めなので、負荷が軽いとヒーター電圧がかなり高く出るからです。稀少管にはその位の配慮をしましょう。リップルフィルタ用のチョークもキットの残骸ですが、容量200mAとちょっとオーバースペックです。

 と言う事で、回路図はこちらです。NFBの位相補償も含めて最終的な回路を掲載しています。

 アンプのケースは、タカチの一般用アルミ薄型ケースを使用してみました。板厚1mmなのでちょっと華奢です。このケースは天板と前後パネルが別になっているので、通常の真空管アンプスタイルのように、天板に主要部品を載せると、入出力端子やボリューム・スイッチ類との接続が面倒くさくなります。裏返して使えばこの問題はなくなりますが、どうにも見てくれが悪いです。結局、殆どの部品は天板側に実装して前面パネル側との接続にはコネクタを使用してメンテナンス性を確保しました。ケースの大きさは240mm×170mm×50mmで、特に高さがギリギリです。ユニバーサル基板に実装した電解コンデンサを収納するために基板とUSコネクタのクリアランスは3mm程しかありません。このため配線が済んだ後にビニルテープでUSコネクタ側を絶縁処理しています。どうもケースは小さ目を選んでしまう癖があるようで、いつも実装には苦労します。後ろ姿と内部は以下の通りです。

 今回も製作は順調で一発で音が出たのですが、ちゃんと測定をしてやると変更したい点が出てきました。まずは定電流回路の発光ダイオードの電圧が目論見よりちょっと低かったので、出力段・初段とも電流値が低くなってしまいました。それに伴って初段のプレート電圧も低めです。そこで出力段の定電流回路の定数を変更して、電流を所定の40mAにします。初段は6mAになっていましたが、こちらはそのままにして、カソードのバイアス抵抗を変更して動作点を移動させました。

 

特性の測定

 無帰還、8Ω負荷で周波数特性を測ります。いつもは1W出力で測定するのですが、小さなシングルトランスなので0.125W(1Vrms)で測ります。低域は3dB低下点が約13Hzです。、高域は1dB低下点が約20kHzとなりました。1kHzにおける電圧ゲインは、Lchが13.2(22.4dB)、Rchが14.3(23.1dB)と0.7dB程の差があります。この原因は初段管利得差です。予備球に差替えればもう少し揃うのですが、管面のマークが前を向くように球を選ぶとこういう事になります。次にダンピングファクタですが、1kHzで2.09となりました。
 仕上がり利得は個人的なスタンダードの5.62(15.0dB)としました。NFB量はLchが7.4dB、Rchが8.4dBです。位相補償を掛けない状態で特性を測定していたのですが、最後に純容量負荷にして安定性を見たところ、またもや見事に発振してしまいました。そこで帰還用抵抗の390Ωに並列に位相補償コンデンサを入れます。安定性を見ながら容量を変えて行き、4700pFに決定しました。周波数特性は低域はほぼ10Hzまでフラットに改善されました。高域は1dB低下点が約31kHzです。位相補償を掛けないと約50kHzなのですが、ここは安定性重視で、欲張ってはいけません。ダンピングファクタはNFB量に応じて高まりLchが5.71、Rchが6.21です。残留雑音はLchが0.52mV、Rchが0.49mVです。
 ついでに1W出力時の周波数特性も測ってみました。高域は全く変わりないのですが、低域は12Hzで3dB低下となりました。やはり小さなシングルトランスにとっては1Wも、厳しい値のようです。
 次に歪み率特性を測ります。右肩上がりの典型的なシングルアンプの特性です。歪み量が周波数によってかなり違うのですが、低レベルにおけるノイズ分を除いた純粋な高調波歪みは、かなり低くなっています。周波数成分を観測する限りそんなに差があるようには見えないのですが、(WaveSpectraの)歪み率計算方法がよく分らないのでこれ以上追求のしようがありません。歪み率そのものは、元々6G−A4が比較的歪みの多い出力管ですから、妥当な所だと思います。5%歪み時の出力は両chとも2.8Wです。
 始めてのシングルアンプなので特性的に注目していたのが、左右チャンネル間のクロストークです。やはり低域での低下は見られるものの20Hzで−68dBです。簡単な電源でデカップリングも特に凝らなかったのですが、これだけの値が得られるのは信号ループが電源系と分離されている、本方式によるものだと思われます。

 特性概要は以下の通りです。

 

L ch

R ch

総合利得(無帰還、8Ω)

13.2 (22.4dB)

14.3 (23.1dB)

負帰還量

7.4dB

8.1dB

総合利得(帰還後、8Ω)

5.62 (15.0dB)

5.62 (15.0dB)

ダンピングファクタ(1kHz、無帰還、8Ω) 2.09 2.09
ダンピングファクタ(1kHz、帰還後、8Ω) 5.71 6.21
残留雑音(帰還後、無補正、8Ω)

0.52mV

0.49mV

最大出力(1kHz、歪み5%、8Ω)

2.8W

2.8W

消費電力

46.7VA (AC 102.8V)

 

 特性図(グラフ)はこちらです。


 

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